小説っぽいラン日記 その1

サボりだすと心肺がすぐ弱くなるため定期的なランが必要だ。
夏、夜にも関わらず蒸返す様な暑さで心が折れそうになるが、
一念奮起して暗闇の多摩川へ向かった。眠気で頭が傾いていた。

沿線道路を渡るとそこが僕の馴染みのランニングコースだ。
背筋をストレッチしながら信号待ちをしていると、
道路を渡った先にスポーツ用キャミソール姿のムチムチした若い女の子がこちらを向いて立っていることに気付いた。それはそうだ。信号待ちだ。
あまりジロジロ見て変態扱いされないように振る舞いながら、僕は頭の中で咄嗟にムチ娘と呼んでいた。
そして信号を渡りきるとそのムチ娘が突然話しかけてきた。
「あの・・ちょっとすいません」
「へい!?」
「いつもこの辺走ってらっしゃるんですか?」
「へ?え、ええ、近所に住んでるんで・・・ハハハ」(謎の愛想笑い)
「結構ここ暗いですよね?」
「ああ、そうですね。夜の河川敷は真っ暗なのでサイクリングロード走るといいですよ。朝は気持ちいいんですけどねー」
「でもこっちも暗いですね」
「そうですよねー」
「・・・」
「・・・(えーっと)」
「・・・あ、ありがとうございました」
「ええ、どうもー」
ムチ娘は去っていった。そして僕もムチ娘に背を向けて走り始めた。

ランニングは脳へ酸素供給が活発になるようで何かしら考え事をしながら走っているランナーは少なくない。
閃きやアイデアを練ることを目的に走っている人もいるらしい。
例に漏れず、当然僕も自分会議が始まっていた。気が付くと10kmを走り終えていた。
これは小学校の国語のテストだ。

問1.この時のムチ娘の気持ちに近いものを下記から選びなさい。
A.やっぱり暗い道しかないんだ。別のコースでも探そかな?
B.なにニタニタしてんの?キモイんですけど。
C.暗くて怖いし、この人なんかいい人そうだし一緒に走ってくれないかな?

いやいやこれはあれだ。引っ掛けだよ。
Aに決まってるじゃないか。いやヘタするとBだよ。酷いねマッタク。
でもあの間はなんだ?
・・・Cの可能性もあるのではないか?
淡い答えを求めて僕は月曜の夜は多摩川を走ることを決心した。

つづく?